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仙台地方裁判所 昭和56年(ワ)792号 判決

原告

高梨さつき

被告

日産火災海上保険株式会社

ほか一名

主文

一  被告北日本物産運輸株式会社は原告に対し、金九五六万八三〇七円及びこれに対する昭和五三年九月一八日以降支払済に至るまで金五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告北日本物産運輸株式会社に対するその余の請求及び被告日産火災海上保険株式会社に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の二分の一と被告北日本物産運輸株式会社に生じた費用を合算し、その合算額の五分の三を被告北日本物産運輸株式会社の負担とし、その五分の二を原告の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告日産火災海上保険株式会社に生じた費用は原告の負担とする。

四  この判決は原告勝訴部分につき仮に執行することができる。

事実

(以下、被告日産火災海上保険株式会社を「被告日産」、被告北日本物産運輸株式会社を「被告北日本」と各略称する。)

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

(一)  被告日産は原告に対し、金四七八万円及びこれに対する昭和五六年五月二〇日以降支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

(二)

(右(一)の請求が認容される場合)

被告北日本は原告に対し、金一一一四万七一七〇円及びこれに対する昭和五三年九月一八日以降支払済に至るまで年五分の割合による金員並びに内金四七八万円に対する昭和五三年九月一八日以降昭和五六年五月一九日に至るまで年五分の割合による金員を各支払え。

(右(一)の請求が認容されない場合)

被告北日本は原告に対し、金一五九二万七一七〇円及びこれに対する昭和五三年九月一八日以降支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら)

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  交通事故の発生

原告は次の交通事故(以下「本件事故」という。)により右下肢広範囲挫滅創、広範囲皮膚欠損、右下肢筋断裂、全身打撲の傷害を受けた。

日時 昭和五三年九月一八日午後一時五〇分頃

場所 宮城県柴田郡柴田町大字中名生字佐野二〇ノ一先国道上

態様 藤巻明彦(以下「藤巻」という。)が大型貨物自動車を運転中脇見をして横断歩道上を歩行中の原告に衝突

(二)  原告の治療状況

1 昭和五三年九月一八日から同月二九日まで一二日間大沼医院に入院

2(1) 昭和五三年九月二九日から同年一一月三〇日までと昭和五四年三月一九日から同年五月一一日まで合計一一七日間仙台逓信病院に入院

(2) 昭和五三年一二月一日から昭和五四年三月一八日までと昭和五四年五月一二日から昭和五五年三月一八日まで合計四二〇日間中二三日間仙台逓信病院に通院

3 植皮時に採皮した臀部、右下腿部の瘢痕皮膚の形成術、アキレス腱延長術等右足関節機能障害に対する手術を将来行なう可能性を残しながらも昭和五五年三月一八日一応症状が固定した。

4 昭和五五年一二月九日森井医院に通院

5 昭和五五年六月五日から昭和五七年九月二七日まで八四五日間中八日間北里大学病院に通院

6 昭和五七年一二月六日から昭和五八年一月二三日まで四九日間東海大学病院に入院(外傷性尖足変形(右足)に対する手術を受けた。)、昭和五八年一月二四日から同年七月二五日まで一八三日間中二日間同病院に通院

7 昭和五八年一月二五日から同二九日まで六日間中三日間福田医院に通院

8 原告の成長に伴い外傷性尖足変形(右足)は増悪する可能性があり、従つて、将来更に手術を行なう可能性を残しながらも昭和五八年七月二五日一応症状が固定した。

(三)  原告の蒙つた後遺障害の等級

原告の蒙つた右足関節機能障害は自賠法施行令別表第一〇級一一号の「一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」に、右下肢の外貌に存在する醜状瘢痕は同表第七級一二号の「女子の外貌に著しい醜状を残すもの」に各該当するところ、第一三級以上に該当する後遺障害が二以上存在する場合は、重い後遺障害の等級を一級繰上げることになるので、原告の後遺障害等級は同表の第六級に該当することになる。

(四)  原告の蒙つた損害 合計金一五九二万七一七〇円

1 治療費 金二〇万一五五〇円

(1) 北里大学病院分 金一万三五七五円

(2) 東海大学病院分 金一八万三一八九円

(3) 福田医院分 金四七八六円

(なお、大沼医院分、仙台逓信病院分合計金二一二万四一一〇円は受領済であるため請求しない。)

2 診断書作成料 金三〇〇〇円

森井医院で診療を受け、診断書作成料として金三〇〇〇円を要した。

3 付添看護料 金四二万五四〇〇円

(1) 大沼医院分、仙台逓信病院分 金二五万二四〇〇円

イ 原告は幼児(昭和四六年五月二七日生)であつたため右両院の入院期間一二八日間(昭和五三年九月二九日の入院が両院で重複するので一日減じて一二八日間とする。)中職業付添婦の外に父又は母のいずれかが付添うことを余儀なくされた。父母の付添看護料は一日当り金三〇〇〇円と解されるから一二八日間では金三八万四〇〇〇円となる

(なお、職業付添婦へ支払つた付添看護料金一五万六四二〇円は受領済であるから請求しない。)。

ロ 原告は前記のとおり仙台逓信病院に二三日間通院したが、その際母が付添うことを余儀なくされた。右付添看護料は一日当り金二〇〇〇円と解されるから、二三日間では金四万六〇〇〇円となる。

ハ 右イ、ロの合計額は金四三万円となるが、このうち金一七万七六〇〇円が受領済であるから残額は金二五万二四〇〇円となる。

(2) 北里大学病院分、東海大学病院分、福田医院分 金一七万三〇〇〇円

イ 原告は前記のとおり、東海大学病院に四九日間入院したが、原告が幼児であつたため母が付添うことを余儀なくされた。右付添看護料は一日当り金三〇〇〇円と解されるから、四九日間では金一四万七〇〇〇円となる。

ロ 原告は前記のとおり北里大学病院に八日間、東海大学病院に二日間、福田医院に三日間合計一三日間通院したが、この際母が付添うことを余儀なくされた。右付添看護料は一日当り金二〇〇〇円と解されるから、一三日間では金二万六〇〇〇円となる。

ハ 右イ、ロの合計額は金一七万三〇〇〇円となる。

4 交通費 金一七万五五〇〇円

(1) 大沼医院分、仙台逓信病院分 金六万五〇八〇円

入退院交通費が金二万八六一〇円、通院交通費が金四万三三〇〇円、供血者の交通費が金三万六四七〇円であり、その合計額は金一〇万八三八〇円となるが、このうち金四万三三〇〇円が受領済であるから残額は金六万五〇八〇円となる。

(2) 北里大学病院分、東海大学病院分、福田医院分 金一一万〇四二〇円

5 入院雑費 金九万三二三二円

原告は前記のとおり大沼医院、仙台逓信病院に一二八日間入院したところ、入院雑費は一日当り金一〇〇〇円と解されるから一二八日間では金一二万八〇〇〇円となるが、このうち、金三万四七六八円が受領済であるから残額は金九万三二三二円となる。

6 医師、看護婦に対する謝礼 金五万一八〇〇円

大沼医院、仙台逓信病院の医師、看護婦に対する謝礼は金七万六八〇〇円であるが、このうち金二万五〇〇〇円が受領済であるから残額は金五万一八〇〇円となる。

7 証明書代 金二三〇〇円

事故証明書代(二通)が金二〇〇〇円、印鑑証明書、住民票代が金九〇〇円であり、合計額は金二九〇〇円となるところ、金六〇〇円が受領済であるから、残額は金二三〇〇円となる。

8 家庭教師謝礼 金二万四五〇〇円

原告は本件事故当時小学一年生であり本件事故のため長期間休学を余儀なくされ、やむなく木内若子に家庭教師を依頼し、謝礼として金二万四五〇〇円を支払つた。

9 装具代、松葉杖代 金一二万六三〇〇円

原告が歩行に必要とする短下肢装具代が金一二万〇八〇〇円であり、松葉杖代が金五五〇〇円であり、この合計額は金一二万六三〇〇円となる。

10 入通院慰謝料 金二〇〇万円

原告は前記のとおり、合計一七七日間入院し、合計三六日間(実日数)通院したが、これにより蒙つた精神的苦痛は金二〇〇万円に相当する。

11 後遺障害慰謝料 金九六七万円

(1) 原告は右足関節機能障害、右足部の変形(尖足)、右下肢醜状瘢痕、右下肢知覚異常の後遺障害を残して一応症状が固定した。

(2) 右によつて、原告が蒙つた精神的苦痛は金九六七万円に相当する。

12 後遺障害による逸失利益 金七三三万三五八八円

原告は本件事故当時満七歳(昭和四六年五月二七日生)の身心ともに健康な女子であつたが、原告の蒙つた右足関節機能障害は自賠法施行令別表第一〇級に該当するところ、これによる労働能力喪失率は二七%である。

原告の就労可能期間は満一八歳から満六七歳までであり、又女子労働者の平均収入は昭和五七年度賃金センサスによると一年間金一九五万六九〇〇円、この外家事労働に従事することによる利益が年間六〇万円あると考えられるから、原告の年間の収入は金二五五万六九〇〇円となる。

しかして、満一八歳までの年数一一年のライプニツツ係数は八・三〇六四、満六七歳までの年数六〇年のライプニツツ係数は一八・九二九二であるから、原告の右後遺障害による逸失利益は金七三三万三五八八円となる。

{2,556,900円×0.27×(18.9292-8.3046)=7,333,588円}

13 (なお、以上の外、原告は大沼医院、仙台逓信病院の入通院中、供血者に対する謝礼として金四万五〇〇〇円、看護料として金一〇万〇八〇〇円の出捐を余儀なくされたが、これは受領済であるので請求しない。)

14 右の1ないし12の合計額は金二〇一〇万七一七〇円となるところ、自賠責保険から受領した金五六二万円(傷害分として金四〇万円、後遺障害分として金五二二万円)を控除すると、残額は金一四四八万七一七〇円となる。

15 弁護士費用 金一四四万円

本件事故と相当因果関係にある弁護士費用は14の金額の約一割に相当する金一四四万円である。

16 右の14と15の合計額は金一五九二万七一七〇円となる。

(五)  被告北日本の責任

藤巻は被告北日本の従業員であるところ、被告北日本の所有する自動車を運転中本件事故を惹起したものである。

従つて、被告北日本は自賠法三条により原告の蒙つた損害を賠償する責任がある。

(六)  被告日産の責任

1 被告日産は本件事故当時被告北日本と自賠責保険契約を締結していたので、被告日産は自賠法一六条により原告に対し自賠責任保険金を支払うべき責任がある。

2 被告日産は昭和五六年九月一九日原告の後遺障害は併合第九級に該当するとして、右等級の後遺障害に対する自賠責保険金五二二万円を支払つた。

3 しかし、前記のとおり原告の蒙つた後遺障害は自賠法施行令別表第六級に該当するところ、右等級の後遺障害に対する自賠責保険金は金一〇〇〇万円であるから、残金四七八万円が未払である。

(七)  結論

よつて、原告は

1 被告日産に対し、自賠責保険金残金四七八万円及びこれに対する昭和五六年五月二〇日以降支払済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金

2 被告北日本に対し、

(原告の被告日産に対する請求が認容された場合)

自賠法三条に基づく損害賠償義務の履行として金一一一四万七一七〇円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五三年九月一八日以降支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金並びに金四七八万円に対する不法行為の日である昭和五三年九月一八日以降昭和五六年五月一九日に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金

(原告の被告日産に対する請求が認容されない場合)

自賠法三条に基づく損害賠償義務の履行として金一五九二万七一七〇円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五三年九月一八日以降支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金

の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告日産)

(一) 請求原因(一)の事実は、そのうち、本件事故の態様は不知、その余は認める。

(二) 請求原因(二)の事実は不知。

(三) 請求原因(三)の事実は争う。その根拠は被告日産の主張において言及する。

(四) 請求原因(四)の事実は不知。

(五) 請求原因(五)の事実は、そのうち、藤巻が被告北日本の従業員であること及び被告北日本が本件事故車の所有であることは認め、その余は不知。

(六) 請求原因(六)の事実は、そのうち、1、2の点を認め、3の点は争う。

(被告北日本)

(一) 請求原因(一)の事実は認める。

(二) 請求原因(二)の事実は不知。

(三) 請求原因(三)の事実は争う。

(四) 請求原因(四)の事実は争う。

(五) 請求原因(五)の事実は認める。

三  被告日産の主張

(一)  自賠法施行令別表第七級一二号は「女子の外貌に著しい醜状を残すもの」と規定しているところ、右の外貌とは頭部、顔面部、頸部等頸から上の日常露出している部分をいうから、原告の右下肢の醜状瘢痕が直接これに該当するものでないことは明らかである。

(二)  自賠法施行令別表備考六の適用につき

1 下肢に醜状障害が存在する場合、それが「下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの」に該当するときは、同表一四級五号に該当する。

2 しかして、下肢の醜状障害が手のひらの大きさを相当の範囲で超える(保険実務においては手のひらの三倍を超える程度を基準としている。)瘢痕を残し、特に著しい醜状に該当するときは、同表備考六の適用により同表第一二級相当となり、瘢痕が下肢の露出面の全般にわたり、且つ、形状、色状が下肢の原型を留めず、全体として目を覆わしめる程度に至つた場合には極めて例外的に同表備考六の適用により同表第七級相当となる。

3 原告の右下肢の醜状瘢痕はその醜状の程度からして同表第七級に相当しないことは明らかで、同表第一二級に相当するものである。

第三証拠関係

訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  交通事故の発生(請求原因(一))につき

被告北日本との間において請求原因(一)の事実は争いがなく、被告日産との間において成立につき当事者間に争いのない甲第七、第八号証、原告法定代理人高梨司郎本人尋問の結果により請求原因(一)の事実を認めることができる(但し、被告日産との間においても本件事故の態様以外の点においては争いがない。)。

二  原告の治療状況(請求原因(二))につき

成立につき当事者間に争いのない甲第四号証、第九ないし第一二号証、第三四ないし第四一号証、原告法定代理人高梨司郎本人尋問の結果によると、請求原因(二)の事実を認めることができる。

三  原告の蒙つた後遺障害の等級(請求原因(三))につき

(一)  原告の蒙つた右足関節機能障害が自賠法施行令別表(以下、単に「別表」という。)第一〇級一一号の「一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」に該当することは明らかである。

(二)  右下肢の醜状障害につき

1(1)  別表第七級一二号は「女子の外貌に著しい醜状を残すもの」と規定しているところ、右の外貌とは日常の一般的用語例からしても頭部、顔面部、頸部等頸から上の日常露出している部分をいうものと解される(原告は「下肢の外貌」という表現を用いて、外貌という用語を表面ないし皮膚という意義に使用するのであるが、このような用語例は一般的にも稀有なことといわざるをえないのみならず、別表は上下肢の露出面の醜状障害について別個に(第一四級四号、五号)規定していることからして、上下肢の露出面は外貌には含まれないというべきである。)。

(2)  右によると、原告の右下肢に存在する醜状瘢痕が直接的に別表第七級一二号に該当することはありえないというべきである。

2  自賠法施行令別表備考六(以下、単に「備考六」という。)の適用につき

(1) 備考六は「各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であつて、各等級の後遺障害に相当するものは、当該等級の後遺障害とする。」と規定する。

イ 備考六は、別表に等級のない後遺障害についてその後遺障害と同一系列に属する別表に等級のある後遺障害とを同一等級の後遺障害であると判定することができるとする趣旨である(同一系列に属することが必要なのは、別表に等級のない後遺障害が他系列の後遺障害と同一等級の後遺障害か否かを判定することは容易ではなく、従つて、その判断に時間を要することになるのみならず、判断の統一を期し難いことから、多数の案件を迅速画一的に処理すべきことが要請される自賠責保険制度になじまないからである。もつとも味覚障害とか臭覚障害のように別表に全く等級のない後遺障害については例外的に備考六の適用により処理するしかない。)。

ロ 備考六により、同一系列の後遺障害について中間等級を認定すること(例えば女子の外貌の醜状障害につき第七級と第一二級の中間に障害の程度に応じて第八ないし第一一級を認定すること)は文理上可能のようにみえるけれども、このような中間等級の認定も容易なことではなく、従つて、その判断に時間を要することになるのみならず、判断の統一を期し難いことから、自賠責保険制度の趣旨からして許容されないというべきである(但し、例えば、一下肢の三大関節中の二関節の機能に著しい障害がある場合について第一一級を認定する等中間等級を認定するについて右のような不都合が生じない場合は許容される。)。

(2) 下肢の醜状障害について、別表は第一四級五号に「下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの」と規定しているのみである。

しかし、同表第七級、第一二級は外貌の醜状障害について規定しているところ、外貌の醜状障害は下肢の醜状障害と同一系列に属すると解されるから、右(1)のとおり、備考六の適用によつて下肢の醜状障害について第七級と第一二級を認定することができるというべきである。

(3) しかして、第一二級に相当する下肢の醜状障害とは、下肢に手のひらの大きさの三倍を超える程度の瘢痕を残し、特に著しい醜状を呈する場合と解するのが相当であり、又第七級に相当する下肢の醜状障害とは女子の外貌の著しい醜状と同格であるから、下肢の醜状障害としては極端に著しいものをいうものと解すべきであり、従つて、瘢痕が下肢の露出面の全域にわたり、且つ、形状、色状とも下肢の原型を留めず、他人をして著しい嫌悪感を生ぜしめる場合と解するのが相当である。

(4)イ 原告の右下肢に存在する醜状瘢痕の態様、程度は成立につき当事者間に争いのない甲第二三、第二四号証、第二六ないし第三二号証(いずれも写真)のとおりである。

ロ 原告の醜状瘢痕は証人近江悌二郎の証言及びこれによつて真正に成立したものと認められる乙第三、第四号証によつて認められるこれまで自賠責保険実務によつて第七級相当と認定された極端に著しい下肢の醜状瘢痕の事例と比較すると、格段に程度が低いものといわざるをえないから、第七級に相当するものとはいえない。

ハ 原告の醜状瘢痕は、下肢の露出面に手のひらの三倍を超える程度の瘢痕を残し、特に著しい醜状を呈するものというべきであるから、第一二級に相当するものというべきである。

(三)  後遺障害の等級併合

原告の後遺障害は別表第一〇級一一号に該当するものと第一二級に該当するものがあるから、第一三級以上の後遺障害が二以上存在することになり、自賠法施行令二条一項二号により重い第一〇級を一級繰上げることになるので原告の後遺障害等級は第九級となる。

四  原告の蒙つた損害(請求原因(四))につき

(一)  治療費 金二〇万一五五〇円

成立につき当事者間に争いのない甲第三四ないし三六号証によると、請求原因(四)1の事実を認めることができる。

(二)  診断書作成料 金三〇〇〇円

原告法定代理人高梨司郎本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一五号証によると、請求原因(四)2の事実を認めることができる。

(三)  付添看護料 合計金二七万九四〇〇円

1  大沼医院分、仙台逓信病院分 金一一万二九〇〇円

(1) 入院分

原告法定代理人高梨司郎本人尋問の結果によると、原告は幼児であつたため大沼医院、仙台逓信病院の入院期間一二八日間の一時期職業付添婦の看護を受けたもののなお、父又は母が常時付添看護をする必要があつたことが認められること、父母の付添看護料は一時期職業付添婦が看護したことを考慮すると、経験則上一日当り金二〇〇〇円と解されることからすると、右両院における一二八日間の父母の付添看護料は金二五万六〇〇〇円となる。

(2) 通院分

原告は前記認定のとおり仙台逓信病院に二三日間通院したが、経験則上母がこれに付添う必要があり、その場合の付添料は一日当り金一五〇〇円であると解される。

そうすると、右の付添看護料は金三万四五〇〇円となる。

(3) 右(1)、(2)の合計金二九万〇五〇〇円から受領済の金一七万七六〇〇円を控除すると残額は金一一万二九〇〇円となる。

2  北里大学病院分、東海大学病院分、福田医院分 金一六万六五〇〇円

(1) 入院分 金一四万七〇〇〇円

原告は前記認定のとおり東海大学病院に四九日間入院したが、これに経験則を適用すると、請求原因(四)3(2)イの事実を認めることができる。

(2) 通院分

原告は前記認定のとおり北里大学病院に八日間、東海大学病院に二日間、福田医院に三日間合計一三日間通院したこと、経験則上母がこれに付添う必要があり、その場合の付添料は一日当り金一五〇〇円であると解される。

そうすると、右の付添看護料は金一万九五〇〇円となる。

(四)  交通費 金一七万五五〇〇円

成立につき当事者間に争いのない甲第四五号証の一ないし四、原告法定代理人高梨司郎本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一三号証によると、請求原因(四)4(1)(2)の事実を認めることができる。

(五)  入院雑費 金六万七六三二円

原告は前記認定のとおり仙台逓信病院に一二八日間入院したこと、経験則上入院雑費は一日当り金八〇〇円と解されることからすると一二八日間の入院雑費は金一〇万二四〇〇円となる。

これから、受領済の金三万四七六八円を控除すると、残金は六万七六三二円となる。

(六)  医師、看護婦に対する謝礼 金五万一八〇〇円

原告法定代理人高梨司郎本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一三号証によると、請求原因(四)6の事実を認めることができる。

(七)  証明書代 金二三〇〇円

原告法定代理人高梨司郎本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一四号証によると、請求原因(四)7の事実を認めることができる。

(八)  家庭教師謝礼 金二万四五〇〇円

原告法定代理人高梨司郎本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一六号証の一ないし四によると、請求原因(四)8の事実を認めることができる。

(九)  装具代、松葉杖代 金一二万六三〇〇円

成立につき当事者間に争いのない甲第四二号証、第四三号証の一ないし四、第四四号証によると、請求原因(四)9の事実を認めることができる。

(一〇)  入通院慰謝料 金一七〇万円

原告は前記認定のとおり一七七日間入院し、三六日間(実日数)通院したが、これによつて原告が蒙つた精神的苦痛は金一七〇万円に相当すると解される。

(一一)  後遺障害慰謝料 金五五〇万円

成立につき当事者間に争いのない甲第四号証、第一一、第一二号証、第四一号証によると、請求原因(四)11(1)の事実を認めることができ、これによつて原告が蒙つた精神的苦痛は金五五〇万円に相当すると解される。

(一二)  後遺障害による逸失利益 金六一八万六三二五円

1  原告法定代理人高梨司郎本人尋問の結果によると、原告は本件事故当時満七歳(昭和四六年五月二七日生)の身心ともに健康な女子であつたことが認められ、原告の蒙つた右足関節機能障害は別表第一〇級に該当することは前記認定のとおりであり、右後遺障害による労働能力喪失率が二七%であることは労働能力喪失率表によつてこれを認めることができる。

2  経験則上原告の就労可能期間は満一八歳から満六七歳までであることが認められる。

3  成立につき当事者間に争いのない甲第三三号証の一、二によると、昭和五七年度賃金センサス第一巻第一表産業計、企業規模計、女子労働者学歴計の項が示す女子労働者の平均収入は年間金一九五万六九〇〇円(131,100円×12+383,700円=1,956,900円)であることが認められる。

女子労働者の平均収入が男子労働者の平均収入よりも低額になるのは、女子労働者が家事労働に従事するため労働時間等において制約を受けることも一因となつているものと考えられるから女子労働者の労働能力を評価するにあたつては右の平均収入に家事労働分を加算するのが相当である。

しかして、前記の年間一九五万六九〇〇円という統計数値は女子労働者の平均収入を示す各種の統計数値の中では低い方に属するものではないことを考慮すると、本件の場合に加算すべき家事労働分は年間二〇万円と解するのが相当である。

そうすると、原告の年間収入は金二一五万六九〇〇円となる。

4  原告が本件事故時から満一八歳に達するまでの年数一一年に対応するライプニツツ係数は八・三〇六四、満六七歳に達するまでの年数六〇年に対応するライプニツツ係数は一八・九二九二である。

5  以上によると、原告の後遺障害による逸失利益は金六一八万六三二五円となる。

{2,156,900円×0.27×(18.9292-8.3064)=6,186,325円}

(一三)  右の(一)ないし(一二)の合計額は金一四三一万八三〇七円となるところ、これから自賠責保険から受領した金五六二万円を控除すると、残額は金八六九万八三〇七円となる。

(一四)  弁護士費用 金八七万円

本件事故と相当因果関係にある弁護士費用は(一三)の金額の約一割に相当する金八七万円であると解される。

(一五)  右の(一三)と(一四)の合計額は金九五六万八三〇七円となる。

五  被告北日本の責任(請求原因(五))につき

被告北日本との間において請求原因(五)の事実は争いがなく、被告日産との間において弁論の全趣旨により請求原因(五)の事実を認めることができる(但し、被告日産との間においても藤巻が被告北日本の従業員であること及び被告北日本が本件事故車を所有することは争いがない)。

六  被告日産の責任(請求原因(六))につき

(一)  請求原因(六)1、2の事実は当事者間に争いがない。

(二)  前記認定のとおり原告の蒙つた後遺障害は併合第九級に相当するところ、被告日産は原告に対し、これに該当する自賠責保険金を全額支払済であるから、未払金は存在しない。

七  結論

(一)  被告北日本は原告に対し、自賠法三条の損害賠償義務の履行として、金九五六万八三〇七円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五三年九月一八日以降支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

(二)  被告日産は原告に対し、前記のとおり自賠責保険金支払義務を全部履行済である。

(三)  よつて、原告の被告北日本に対する請求は、右(一)の限度において正当としてこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却することとし、被告日産に対する請求は全部失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三浦宏一)

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